近代的な造りの清潔感溢れるロビー
ガラス張りの扉を開け
薄茶色と白のコントラストも鮮やかなタイルを踏み
青いドアのエレベーターに乗る
パネルに取りつけられたボタンは1階と地下6階だけ
俺は地下6階と書かれたボタンを押し
地面の底に下りていく
急停止するエレベーター
胃のあたりに不快感を抱え
俺は地下の6階に辿りついた
確かに地階のはずなのだが
目の前はまるでガラス張りの展望台のようだ
外の様子がよく見える
今日の天気は
やや荒れ模様
ガラスの前に立つと
眼下にはなだらかな丘と濃紺の海が広がっていることがわかる
丘は芝生に覆われ
石で作られた階段が刻まれている
不意にその海を間近で見たくなり
俺は階段を降りていった
見ると階段は海の中にまで続いていた
乱反射する水面の下で
遥か海の底の暗がりにまで階段は伸びている
その暗がりが無性に恐ろしく俺はぶるると背筋を震わせた
何か別のものを見て気を紛らわそうと周囲に目をやると
ここで初めて階段の波打ち際に誰かが腰を降ろしている事に気づいた
俺の弟だ
安堵した俺は
弟と同じように石段に腰を降ろした
何を話したかは覚えていないが
時間にして10分ほどは話したろう
俺は「もう行くよ」と言い
弟を残して一人階段を登り始めた
10段ほど登ったとき時
背後で一際大きく波がしぶく音が聞こえた
不吉な予感に襲われ俺は後ろを振りかえる
弟は今まさに波に飲まれ
深い深い海の底の暗がりに消えていくところだった
俺は腰まで海に入り弟の姿を探すが
そこには荒れ模様の波と不気味に明滅する暗がりがあるだけだった



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弟が死ぬ夢を見た